昼休みに北原と昼食をとりに近くの喫茶店に行くと、清水と久子が先にいてランチを食べていた。菊川たちも同席して同じものを注文した。日替わりランチにはドリンクが付いている。コーヒーが来ると清水は煙草を取り出した。この業界の女性は殆どが煙草を吸う。それもヘビー・スモーカーが多い。仕事の性質上吸っていないとやってられないのだ。セラムの小野が煙草を吸っているのを見て、菊川は驚いたことがある。あの童顔と何とも不釣り合いなのだ。
清水は独身だが、北原も彼女の正確な年齢は知らなかった。それでも30は越えているのは間違いないと言った。顔一面にニキビの跡が残っていて、それを隠すためか、色濃く化粧をしている。それが月面のクレーターのようで余計に目立つ。
久子は余り皆の顔を見ようともせず、自分から口をきくこともなかった。普通なら愛想笑いをしたり、分からないことを可愛げに質問したりするのだが、感情を表に出さない。菊川は勝ち気な女に違いないと思った。清水が煙草を勧めると、「余り吸わないんです」と言ったが、一本抜き取ると口にくわえた。すかさず北原がライターを差しだした。確かに余り吸いつけないらしく、時々煙に顔をしかめた。清水と並ぶと、化粧を感じさせない白い肌は27才とは思えないほど、艶やかで張りがあり処女を思わせた。喫茶店を出て、そのことを北原に言うと
「そんなはずがないだろう、あんな女を男が放っておく訳がない」と言って一笑に付した。