三日目の最終日は、朝から続いて二人の応募者があった。面接は菊川がまず履歴書を預かり15分ほどの簡単な漢字のテストをやってもらう。それから社長が面談するという段取りである。菊川はその横でテストを採点することになっていた。
一人目は32才の主婦だった。小柄な女性で、顔からはみ出しそうな眼鏡をしていてトンボのように見える。元は小学校で教えていたという。出産のため仕事を辞めたが、姑が子供の面倒を見てくれるというので、もう一度働きたいと言った。教師をしていた割には20問中5問間違えていた。
二人目は二十歳そこそこの、いかにも今風のギャルという感じである。余り寒いとは思えないのに、虎柄のハーフコートを身につけ、その下も派手なプリントもようのシャツとスラックスという出で立ちである。そしてぽっこりのような高いサンダルを履いていて、歩くたびにポコポコ音がする。しかし16問正解で、カナタイプも経験があるという。有力候補だ。
昼休みが終わってすぐ電話が鳴った。
「今、地下鉄の2番出口を上がったところのS銀行の前にいるんですが、これからどう行けばいいんですか?」少し鼻にかかった若い女の声だった。菊川は名前を訊いて
「すぐ行きますから、そこで待っていてください」と応えた。
銀行の前に行くと、こちらを見ている若い女がいた。
「内田さんですか?」女は右手で髪を直しながら、中途半端に微笑んで頷いた。美人だった。二十四、五だろうか。中肉中背で、似た女優は思い浮かばない。薄いベージュのワンピースを着た女には落ち着きがあった。
「すぐそこです」菊川は先に立って歩き出した。会社までの3分ほどの道のりが苦痛だった。菊川は体型、歩き方など後ろ姿を見られるのが好きではなかった。
菊川は女から履歴書を受け取ると、一瞬手を止めた。通常、履歴書の添付写真は、何の意思も見えない取り澄ました顔写真が貼られているものだが、その写真は今アルバムから引っぱがしてきたように悪戯っぽく笑っていた。そして生年月日を見て、また驚いた。生年こそ菊川より三才下だが、菊川と全く同じ誕生月日が記されていた。
「内田久子 本籍:富山県 趣味:レース編み、油絵」
女は答案用紙に向かっている。社長は衝立の向こうで北原と話している。菊川は女の横に座った。答案は殆ど出来ている。「紫陽花」の下が空白になっている。菊川はメモ用紙に「あじさい」と書いて女の前に押しやった。女は顔を上げ、菊川を見た。睫毛が長くてその奥の瞳は少し茶色がかっている。綺麗な女だ。顔を上げた時睨みつけたように見えた目は、和んで笑みが浮かんだ。
「もうよろしいですか?」と社長が声を掛けた。菊川は素早くメモ用紙を屑入れに投げ込んだ。
履歴書を見ていた社長は突然
「立ち入ったことをお訊きして失礼ですが、現在お付き合いされている方はおありですか?」と訊いた。
「いや、あなたのような美しい方は男が放っておかないでしょう。これまでもそんな事で、突然休まれたり、辞められたり色々トラブルが有りましたので・・」女はうつむいたまま
「いえ、特に交際している人はいません」とポツッと言った。その後は、大阪に来て四年だとか、女の友達とマンションで同居しているとか、つい最近まで喫茶店で働いていたとか言った。版下の経験も有ると言った。点数は16
点だった。