この制作記録の主な登場人物
■nae
プロとは名ばかり、色を愛するお気楽Flashクリエイター。ジョニー・デップのような髭を生やしたい。
創作意欲10000に対し、実際の時間は1しか得られず日々悶々としている。
Flash「ハクシャクノテンシ」制作、キャラクターデザイン。
■武藤暁さん
人並みはずれた才能と輝かしい経歴を持ちながらも、刹那的生き方を選んでいる奔放なる役者。
ずば抜けた頭の回転力とユーモアセンスから繰り出されるネタテキストがblog上で常時炸裂。
原作「ハクシャクノテンシ」著者。
関連作として「マジョの物語」「死神のお仕事と天使のような彼女」「ハクシャクトテンシ」の3作を公開している。



 「ハクシャクノテンシ」制作記録

※2年前の記憶と当時の資料やログをかき集めて作成したテキストです。
 部分的には忠実ではない箇所もあると思われます。ご了承下さい。

 2004年
 4月1日
「すてきな奥さんのパソコン大好き。NO.21」(すてきな奥さん増刊号)という雑誌が発刊された。
記事中の「Flashアニメデータ」に私が、「小説データ」に武藤さんが掲載されていた。
が、この時はまだ武藤さんのことを全く知らなかった。

 4月×日
N-GRAVITYの掲示板に武藤さんが現れた。
「雑誌掲載者のホームページを回っていて辿りついた」という書き込み。
それを受けて、武藤さんのサイト「Love-Bitch」を覗きに行った。
サイト名のパンクさに惹かれ、公開していたテキストを閲覧。
そして、「空島のミライ」「ハクシャクノテンシ」に強く魅了された。
特にハクシャクノテンシは、読みながら頭の中に沢山の情景が湧いてきて、大いに創作意欲を刺激してくれた。

ハクシャクノテンシをFlashにしたら、どうなるだろう?
イラストを順番に差し替えて読ませる絵本風、紙芝居風の見せ方がいいかもしれない。
イラストは色鉛筆か水彩を使用したラスター画像で…
ゆっくりと、妄想が自分の中で膨らんでいくのを感じた。

 9月×日
Flash★bomb'04が終了して、季節は秋に差し掛かろうとしていた。
私には作りたいFlashの構想があった。Flashを始めた頃からやってみたかった作品形式。
アニメーションと演劇と箱庭模型を組み合わせる、「箱庭演劇アニメーション」の構想だった。
大きなイベントも終わり、時間的余裕のある時期。作るとすれば今を措いて他にない。
よし、作ろう。

となると問題は題材だ。
自作の題材候補は幾つかあった。それらを作り上げたい気持ちもあったが、ハクシャクノテンシを「箱庭演劇アニメーション」の世界で描いてみたい、という思いがそれを上回った。

そうと決まれば、行動あるのみだ。
私は武藤さんにメールを送り、コラボを持ちかけた。
彼は私が予想した以上に乗り気を見せてくれた。

 ×月×日
脳内の完成形にマッチしたBGMを探し始める。
ピアノか?バイオリンか?何が相応しいのか考え抜いた結果、辿り着いたのがクラシックギターだった。
この時、私がブックマークしていたインディーズ楽曲の「クラギ」フォルダ内に、一人のクラシックギター奏者のサイトが登録されていた。
それがYASUさんのサイトだった。

 ×月×日
武藤さんと初の打ち合わせ。
彼との打ち合わせは、そのほとんどが鍵付きの専用掲示板で行われた。

実は、まだこの時点で私は迷っていた。
ハクシャクノテンシを箱庭演劇アニメーションで描くのが正しいのかどうか。
ひょっとしたら絵本、紙芝居風の見せ方の方がよいのではないか。原作のイメージに忠実なのは、おそらくこちらだ。

「小説とは違った感じにしたいですね。アニメっぽく」
武藤さんはあっさりとそう言った。
なら、絵本の線はない。私は心を決めた。

 ×月×日

イメージラフを元に、Flash「ハクシャクノテンシ」用の脚本を書き起こす日々。
「自殺しようとしてるテンシ…やっぱり身投げがわかりやすいかなぁ…」

すると、「脚本を起こしました」と武藤さんがテキストをupしてくれた。
これは完全に予想外だったが、原作者自らが小説からアニメーションを意識した構成に直してくれるのは心強い。
だが待てよ。まだ私は箱庭演劇アニメーションのことを武藤さんに話していない…。

 第一稿(武藤さん)

童話をイメージさせる吸血鬼の一枚絵。
「むかし、むかしのオハナシです
そこにはハクシャクという吸血鬼がいました
でもハクシャクは血を吸えないドラキュラでした」

ハクシャク『だって鉄っぽい味がするし、ドロドロして気持ち悪いんだもん』

「そのうえシュミはひなたぼっこで、十字架のアクセサリーが大好きでした」

ハクシャク『だって太陽は気持ちが良いし、十字架もカッコイイから』

霧が掛かるように白一色になる。
「ハクシャクはあまりにドラキュラっぽくないので
ミンナからいじめられていました」

「今じゃない時、此処じゃない場所、
雪は白くて星はキラキラして空気はおいしかった、
そんな世界のオハナシ」

突然バリバリのアニメ風になる。
狼男に思い切り殴られ、吹き飛ぶハクシャク。

ピクピクと痙攣しているハクシャク。
ソレを取り囲む様に、ジェイソン、魔女。
ジェイソン『血を吸えないドラキュラなんてドラキュラじゃないよ』
魔女『かっこわるーい』
その絵に被せて、ドーンっと狼男のUP
狼男『毛ぶかいんだよ!』

ハクシャク、ガーンと凄いショックを受ける絵。
ハクシャク『キミほどじゃないよ…ないよ…いよ…』(エコー)

公演をトボトボ歩くハクシャク。
テンシとすれ違う、ハクシャクは考え事をしていて気付かない。
ハクシャク『どうしてボクはいじめられるんだろう?』
ハクシャクの後ろ、遠めの木の下に移動するテンシ。
ハクシャク『バンドとか始めようかな?』
後ろで首を吊る準備を始めるテンシ。
ハクシャク『そういう問題じゃないか…』
フッと自嘲的な笑みをこぼすハクシャク。
背後でテンシが自殺しようとしているのに『はうぁ!?』と気付く。

縄に手をかける手からカメラが舐める様に足までテンシの姿を映す。
足元の処で、テンシが踏み台から足を外す。

テンシの首に縄がかかる、テンシ恍惚とした表情。

走るハクシャク、大迫力。
必死に走る背景に「ダメだっ!!」
「STOP THE 天使!!」
「年金が無くなるなんて誰が言ったの!!!」等の文字。

テンシの首が絞まる前に飛び込んくるハクシャク。
ハクシャクの頭突きでテンシの頭が凄い弾かれ方をする。
回転しながら吹き飛ぶテンシ。
飛び込んだ勢いでそのまま縄に突っ込んで首を吊るハクシャク。

ハクシャク、首吊り状態のまま。
ハクシャク『キミはいくつだい?』
テンシ『2ひゃく6じゅう1さい』
ハクシャク『まだ若いじゃないか』

夕暮れ、ラーメン屋でテンシを説得するハクシャク。
ハクシャク『神様が言ってた、自殺は一番しちゃダメなコトなんだ』
テンシ『だって輪っかのついてないテンシなんてテンシじゃないもの』

テンシ正面、ラーメンを食ってる。
頭に輪っかが無く、リングのピアスなどアクセサリーをジャラジャラつけている。
ハクシャクはテンシの気持ちに共感。

ハクシャク『ニンニクをたくさん入れた方がおいしいよ』

夜、街灯の灯り。
ブランコに座るハクシャク、横でブランコに立ち乗りのテンシ。


ハクシャク『ボクなんか一つもドラキュラらしいところがないけど、
キミにはテンシらしい白い羽根があるじゃないか』
テンシ『ほれた』
ハクシャク『え?』

「テンシはハクシャクに恋をしました」

テンシUP、満面の笑顔。
テンシ『きめた、アタシが必ずアナタをりっぱなドラキュラにしてあげる
だからその時はアタシの血を吸って、アタシをドラキュラにしてちょうだい』

困惑するハクシャク。
ハクシャク『ダメだよ、天使は吸血鬼にはなれない
血を吸われたら死んじゃうかもしれないよ、だから絶対にキミの血は吸わない』

ハクシャクの腕を抱えるテンシ。
テンシ『それでもいい、テンシじゃなくなれれば何でもいい』

「その日からテンシはハクシャクの屋敷に住みつきました」

ハクシャクの屋敷。

テンシの身体には先日は無かった十字架のタトゥーがある。

テンシ『はい』
トマトジュースを差し出すテンシ。
ハクシャク『何コレ?』
テンシ『今日からアナタはこれ以外の物を口にしては駄目よ』
ハクシャク『え…』
テンシ『なれるトコロからはじめようね』
ハクシャク、トマトジュースを飲む。
ハクシャク『まあ、これはこれで健康的』
笑顔の二人。

白背景。
「特訓の日々」

ニンニクをハクシャクに投げつけるテンシ。
「ビシっビシっ」
ハクシャク『イタイ、イタイ』

虫眼鏡で太陽の光を集め、ハクシャクの目を焼くテンシ。
「ジリジリジリ…」
ハクシャク『アツイ、アツイ』

どでかい十字架でハクシャクを殴打するテンシ。
「ドカバキボケキャ」
ハクシャク『ひどいよ、ひどいよ』

ハクシャクの頭上でボーリングの玉を掲げるテンシ。
ハクシャク『えっ、これは何の特訓…?』
ハクシャクの上にボールを落とすテンシ。
「グシャア」
血しぶき。

白一色
「ハクシャクは順調にニンニクと太陽と十字架をキライになりました
でも、ある日とつぜんテンシがトマトジュースを隠してしまいました
ハクシャクはオナカが空いたけれど、他の物は何もノドを通りません
ハクシャクはテンシがイジワルをしてると思いました。

ハクシャクの屋敷、太陽に弱くなった為、昼なのに光を遮断して薄暗い。
空腹の為、目が据わっているハクシャク。
テンシのクロスのタトゥーが目に入り、具合が悪くなりイライラする。

ハクシャク、正面、俯きぎみ。
ハクシャク『オナカがすいたよ…』

テンシ、正面、後ろ姿。
『そぉ』

ハクシャク、正面、顔を上げてテンシを睨んでいる
『…外に食べ物を探しに行くよ』

テンシ、正面、後姿。
『ダメよ』

ハクシャク横顔、俯いて震えている、必死で耐えている物の限界。
ハクシャク『……』

ハクシャク、叫び。
ハクシャク『何でこんなイジワルすんのさっ!!』

テンシ振り返る、見下す様な視線。
テンシ、ハクシャクを覗き込む様にして近づいてくる。

テンシ、ハクシャクの顔にググッと顔を近づける。
テンシ『それはアナタがドラキュラっぽく無いからよ』

テンシの口元がニヤリとゆがむ。

ハクシャク、ショックを受け硬直する、横顔、涙が流れる。
そのハクシャクの耳元に顔を寄せるテンシ、恍惚とした表情。
耳元で。
テンシ『それは、アナタがちっともドラキュラっぽく無いから』

ハクシャク、憎悪と狂気の瞳。
ガバッとクチを開け、目の前にあるテンシの首筋に牙を突き立てる。
テンシの白い首筋を真っ赤な血が滴り落ちる。

血をすするハクシャク。

間があって、テンシの手がハクシャクの頭を撫でる。
テンシ『オイシイでしょ?』

ハクシャクを抱きしめるテンシ。
テンシ『…アナタはもう血を吸えるんだよ…
だってあのトマトジュースにはアタシの血を少しずつ混ぜておいたから」

テンシ、優しい表情。
テンシ『がんばったね…』

テンシの手がダラリと落ちる。
グッタリとなったテンシを支えるハクシャクのシルエット。

夜、ハクシャクの屋敷、満月が映える。
「ハクシャクは今日も血を吸いに夜の町に降ります
もう誰もりっぱなドラキュラになったハクシャクをバカにする人はいません」

屋敷の中、立てかけられた棺桶の前に立つハクシャクのシルエット。

棺桶の蓋が外れる。
そこには肌がハクシャクと同じ色になって、
羽根も真っ黒になったテンシが目を閉じて横たわっている。

テンシのUP
「テンシが目を覚ますことは二度とありませんでした
でも、ずっとずっとずっと幸せそうな顔をしていましたとさ」
「今じゃない時、此処じゃない場所
雪は白くて星はキラキラして空気はおいしかった
そんな世界のフシギなオハナシ」
ハクシャクが翻したマントで画面が真っ黒になる。
黒背景。
「ハクシャクのテンシ
おしまい」


(原文のまま)

原作からの変更点は、フランケンがジェイソンに変わっている部分や、吸血シーンの練り込みなど。
「バリバリのアニメ風」「翻したマントで画面が真っ暗に」などの一文から、武藤さんのイメージが伝わってくる。
よく動く、正統派アニメだ。
が、それは私のやりたいものではなかった。

 ×月×日
キャラクターデザインは、初めに原作を読んだ時のイメージで起こしたラフからスタートした。
初めて読んだ時に浮かんだイメージは、低頭身キャラではない。
テンシもハクシャクも、リアルな頭身の人物だ。
ハクシャクは痩せて顔色の悪い、スパイキーヘアの若者。
テンシは唇、鼻、耳、顎、瞼、臍、翼など、体のいたるところにリング状のピアスをつけている、退廃的な風体をした小柄な娘。

デザインを第二稿に移した時、「愛される外見」という要素を盛り込んだ。
ハクシャクは坊ちゃん貴族風な弱々しい風貌になった。(テンシの自殺を強く批難する時や、怒りからテンシを襲う時の表情とのギャップを出したかった)更に、ルーズな袖先で手を隠し、攻撃的なイメージを消した。
テンシは服、髪型共にシンプルな外見に変えた。ピアスは耳の3つだけに。ピアスの痛々しさは私の中でテンシの大事な要素でもあったが、ハードすぎる外見は鑑賞者から愛されにくく、また世界観から浮いてしまうと考えたからだ。ちなみに、テンシはデザイン初期から裸足となっていて、それは最後まで貫かれた。
魔女はハクシャクをいじめる代表として、攻撃的な外見にすることにした。
髪型、服などを鋭角のギザギザで統一して尖った性格と小悪魔的な可愛さを出そうとした。
ジェイソンと狼男は深く考えず、ざくざくと描き上げた。自分では考えずに魔女に倣う、無思慮で抜けたイメージがそのままラフ絵に出た。



このキャラクターラフとイメージラフを武藤さんに見せたところ、「原作のイメージとは違いますが、アニメらしくていいと思います」と、まずまずの反応が返って来た。

ここから更に、箱庭演劇アニメーション用の低頭身キャラクターに直していった。

 

 ×月×日
武藤さんの脚本を自分のものとMIXした第二稿を書き上げた。
が、私はこれを武藤さんに見せなかった。
箱庭演劇アニメーションという概念を文でいくら語ってもおそらく理解を得るのは難しい。まだ私の脳内から出てきていないものをわかれと言うのは無茶なことだ。
そこで私は、オープニングから第一幕までをある程度Flashで製作して、それを見せるという暴挙に出た。
これに限ったことではないが、私は言葉ではなく、形になっているものを見せて相手の理解を得たいと思う性格なのだ。
百聞は一見にしかず。私の座右の銘のひとつだ。

 第ニ稿(nae)

 
<NOW LOADING>
吸血鬼のシルエット絵(緞帳に)
タイトル「ハクシャクのテンシ」と書かれている。
(テンシが描かれている部分は見せない)
両隅にシルエット。

<START>
照明が落ち、左にスポットライト。
左のシルエットが、本を持ったナレーターに変わる。
瞬き一度。

「むかし、むかしのオハナシです」
「ハクシャクという吸血鬼がいました」
「でもハクシャクは血を吸えないドラキュラでした」


右手にスポットライトが切り替わる。
右のシルエットが、ハクシャクに変わる。
ハクシャク『だって鉄っぽい味がするし、ドロドロして気持ち悪いんだもん』

スポットライトが切り替わる。
「そのうえシュミはひなたぼっこで、十字架のアクセサリーが大好きでした」

スポットライトが切り替わる。
ハクシャク『だって太陽は気持ちが良いし、十字架もカッコイイから』

スポットライトが切り替わる。
「ハクシャクはあまりにドラキュラっぽくないので
ミンナからいじめられていました」

緞帳が上がっていく。(開幕のブザー)
ハクシャク、薄闇の中を中央へ移動。(サウスパーク歩行)
緞帳が上がりきるのを待たず、立ち位置まで行ってスタンバイ。

「今じゃない時、此処じゃない場所」
「雪は白くて」「星はキラキラして」「空気はおいしかった」
「そんな世界のオハナシ」

スポットライトが落ち、ナレーターが左へ退場。

照明ON。
画面引いて、舞台全体を捉える。




「第1幕」
左方向をアップ。そのままPANしてハクシャク達へ。

マジョに思い切り殴られ、倒れるハクシャク。
半べそで見上げるハクシャク、アップ。
取り囲む様に、魔女、ジェイソン、狼男。
マジョ『ドラキュラなのに血が吸えないって?』(ニヤニヤ笑って)
マジョ『かっこわるーい!』
ジェイソン『このモヤシ野郎!』
オオカミ男『毛ぶかいんだよ!』(アップ、キャメラ高速寄り)
ハクシャク、アップ。ツッコむ気力もなく『!?』の表情。口開きっぱなし。

引いた状態の画面に戻って。
照明落ちる。
3人組、薄闇の中をとっとこ退場。
ハクシャク起き上がって正面向く。
スポットライトON。ガコッ。
『ボクはなんて情けないんだろう』
ハクシャク、アップ。
『ああ…イヤになるなぁ…』ため息。
画面引く。ハクシャクは左へトボトボと歩き始める。

(暗転)

公園をトボトボ歩くハクシャク。
テンシとすれ違うが、ハクシャクは考え事をしていて気付かない。
ハクシャク『どうすればいいのかな…』
ハクシャク『バンドとか始めようかな?』
後ろで首を吊る準備を始めるテンシ。
ハクシャク『そういう問題じゃないか…』
フッと自嘲的な笑みをこぼすハクシャク。
背後でテンシが自殺しようとしているのに『はうぁ!?』と気付く。
後ろ向きのテンシ。縄、首、足(台)、とカットが重なる。

ダッシュして、ヘッドバッドするハクシャク。

ハクシャクの頭突きでテンシの頭が凄い弾かれ方をする。
回転しながら(←ブラー処理)吹き飛ぶテンシ。
フレームアウトして画面揺れ。
(暗転)
起き上がるテンシ。
テンシ『いたた…』(顔しかめて)
テンシ『もう!なんで邪魔するのよ!』(顔上げる)
文字が出終わると同時(読みきれるかどうかのタイミング)に次カットへ。

首吊り状態のハクシャク。画面引き。
テンシ『って、えぇぇぇええー!?』Σ(ガビーンてなもんだ)


「第2幕」

夕暮れ、屋台でテンシを説得するハクシャク。
暖簾の下に見える、ふたりの背中へズームしながら、
ハクシャク『キミいくつ?』
テンシ『2ひゃく6じゅう1さい』

店内。手馴れた様子で麺をほぐすミイラ。
ハクシャクの顔アップ。
ハクシャク『まだ若いじゃないか』(ひと呼吸あけて)
ハクシャク『死ぬには早すぎるよ』
テンシのアップ。もぐもぐやってた口を止めて、瞬き。
ぼんやりと、自分に言い聞かせるかのように、どんぶりを見つめながら続けるハクシャク。
ハクシャク『神様が言ってた。自殺は一番しちゃダメなコトなんだ』
テンシ一瞬目を伏せて、ハクシャクから視線逸らせる。
テンシ『だって輪っかのついてないテンシなんてテンシじゃないもの』
言い終えてテンシ、ラーメンを再度食べだす。
輪っかの無い頭部→耳元のリングのピアス、の順にアップ&PAN
ピアス、揺れて光る。
ハクシャクのアップ。口を開けて呆とした表情(テンシの気持ちを理解・共感)
卓上のアルミ角缶(「ニンニク」と書かれたステッカーが貼られている)のアップ。ハクシャクの手がそれをつかむ。
視点切換。背中向け。
ハクシャク、缶をテンシに向けて。
ハクシャク『ニンニクをたくさん入れた方がおいしいよ』
テンシ『…ありがと』

屋台の柱時計アップ。
針が回転。月が中天から森へ落ちてゆく。(時間経過)

ミイラ片付け中。横PAN。
ハクシャク『ボクはもっとヒドいさ。ドラキュラらしいところは、ひとつもない』
ハクシャク、アップ。遠くを見ている。
ハクシャク『でも、キミにはテンシらしい白い羽根があるじゃないか』
テンシ、アップ。ぽかんとしてハクシャクを見ている。
やがて、瞳に光が灯る。

画面高速で引いて舞台全体。高速移動して、ナレーターへ。微アップ。
「テンシはハクシャクに恋をしました」

テンシ、アップ。にっこり微笑む。
テンシ『きめた、アタシが必ずアナタをりっぱなドラキュラにしてあげる』
『だからその時はアタシの血を吸って、アタシをドラキュラにしてちょうだい』

困惑するハクシャク。
ハクシャク『ダメだよ、天使は吸血鬼にはなれない』
『血を吸われたら死んじゃうかもしれないよ』
『だから絶対にキミの血は吸わない』(彼にしては精一杯眉を厳しくして)

二人背中。
椅子ごとゴトゴトと移動して、ハクシャクに頭をすり寄せるテンシ。
テンシ『それでもいい』
『テンシじゃなくなるなら、何でもいい』

ナレーター、口元アップ。
「その日からテンシはハクシャクの屋敷に住みつきました」
(暗転)

「第3幕」

ハクシャクの屋敷。
カメラ、クロスのタトゥーを彫りこんだテンシの全身を上から下へ舐める。

テンシ『はい、どうぞ』
トマトジュースを差し出すテンシ。
ハクシャク『トマトジュース?』
テンシ『今日からこれ以外の物を口にしては駄目よ』
ハクシャク『え…』
テンシ『なれるトコロからはじめようね』
ハクシャク、トマトジュースを飲む。
ハクシャク『まあ、これはこれで健康的』
笑顔の二人。

(暗転)

画面引く。舞台広く映して。
(BGM開始)
追っかけるテンシ。逃げるハクシャク。
ニンニクを持ったテンシの手元アップ。
ニンニクをハクシャクに投げつけるテンシ。
ニンニクが手から離れると同時に引き。
ハクシャクの頭に次々に命中するニンニク。
ハクシャク『イタイ、イタイ』

二人とも消える。
別の場所に再び登場。

虫眼鏡で太陽の光を集め、ハクシャクの目を焼くテンシ。
虫眼鏡を持ったテンシの手元アップ。
恐怖するハクシャクの顔IN。
光線が浮かび上がると同時に引き。
「ジリジリジリ…」
ハクシャク『あつッあつうッ!』
『ミディアムレアで!せめてミディアムレアでお願いします!』

二人とも消える。
別の場所に再び登場。

手作りの不恰好な十字架を持ったテンシ。
ハクシャクにあやしげな催眠術をかける。
「あなたは十字架がキライになる…キライになる…」
ハクシャク、目を回して倒れる。

二人とも消える。
別の場所に再び登場。

ハクシャクの頭上でボーリングの玉を掲げるテンシ。(階段orテーブルの上に乗って)
ハクシャク『これ、何の特訓…?』(アップ)
ハクシャクの上にボールを落とすテンシ。
鈍い衝撃。(シェイク)

倒れたハクシャクの足だけが見えている。

BGMフェードアウト。

ナレーターへキャメラ移動。
「ハクシャクは順調にニンニクと太陽と十字架をキライになりました」
「ところがある日、突然テンシがトマトジュースを隠してしまいました」
画面引いて舞台全体。
窓が板で打ち付けられている。壁の十字架が取り外されている。
右からハクシャクがフラフラと歩いてくる。
「ハクシャクはオナカが空いたけれど、他の物は何もノドを通りません」
ハクシャク、アップ。弱々しい表情。
「困ったな…」

左上、2階入り口へズーム。
(暗転)

2階ハクシャクの部屋。
距離を取り、向かい合って立つテンシとハクシャク。
窓は全て1階のものと同様に封じられている。

「第4幕」

ハクシャク、目のアップ。眉寄せて苛ついた表情。
テンシのクロスのタトゥー、アップ。
ハクシャク、目のアップ。
ハクシャク『オナカが空いたよ』

テンシ無感動に『そぉ』。

ハクシャク、目のアップ。
『…外に食べ物を探しに行くよ』

テンシ無感動に『ダメよ』

ハクシャク目を伏せる。眉が険しく寄る。
ハクシャク『…どうしてこんなイジワルをするの?』

『アナタが苦しいとアタシが楽しいわ』

ハクシャク、ぽかんと口を開ける。

テンシ、ハクシャクに近づきながら
『立派なドラキュラにする』なんて、全部ウソ。
いじめるつもりだったのよ。はじめっから』

『でもアナタが悪いのよ』
ハクシャクに影が覆いかぶさる。
怯えるハクシャクの顔。

恐怖に彩られたハクシャクの目、アップ。
写り込んだ十字架が近づいてくる。

テンシ、正面。ググッとアップに。
テンシ『アナタがドラキュラっぽくないから』
意地悪な顔で嘲弄。

(暗転)
文字躍る。
「アナタがドラキュラっぽくないから」

ハクシャク、一度目をぎゅっと閉じてまた開く。
恐怖と狂気の瞳。
同時に歯を食いしばる。
ズーム&微回転して固く結ばれた口元へ。
かっと口を開き、牙を見せる。
テンシの首筋へ高速ズーム(ブラーあり)

(暗転)
紅い点がふたつ、ぼんやりと浮かぶ。

曲、スタート。

照明落ちている。
スポットライトON。
カメラ、絡み合うテンシとハクシャクを足元からバストアップまで舐める。

フラッシュカットイン。
コップ。

ハクシャクの目アップ。(はっと見開く)

フラッシュカットイン。
カミソリで手首を傷つけるテンシ。

微笑むテンシ。

フラッシュカットイン。
血のしずくがコップへ次々に落ちる。

ハクシャクの目アップ。(見開かれている)

テンシの手がハクシャクの頭を撫でる。
テンシ、アップ。にっこりと笑顔で。
テンシ『がんばったね』

テンシの手がぱたりと落ちる。
グッタリとなったテンシを支えるハクシャク。
二人の姿がシルエットになって画面引く。
引きながら(暗転)。


やや長い間。


街角。
走っていくマジョ3人組。(シルエット)
『早く早く!
 もうハクシャク様がお見えになるわ!』
『HO!HO!お出迎えだ!』
『たまにはサボろうぜ』
3人が消えると同時に、大きな蝙蝠の影が路上を走って消える。

ナレーターへ移動。
「ハクシャクは歳を重ねて、
 リッパなドラキュラになっていました
 バカにする人は、もう誰もいません」
(暗転)

屋敷2階。
棺桶の前に立つハクシャク。

棺桶の蓋が外れる。(あるいは外れている)
そこには肌がハクシャクと同じ色になって、
羽根も真っ黒になったテンシが目を閉じて横たわっている。
足元からPAN

テンシアップ
下からPAN

黒バックでナレーター
「テンシは二度と眼を覚ましませんでした。」

テンシアップ(安らかな寝顔)ズーム
「でも、ずっとずっとずっと…
 幸せそうな顔をしていましたとさ」
(暗転)

文字フェードイン。全部一度にドン。
「今じゃない時、此処じゃない場所」
「雪は白くて」「星はキラキラして」「空気はおいしかった」

「そんな世界のフシギなオハナシ」

BGMスタート。
スタッフロール&キャスト。

上から緞帳降りてくる。
画面、右にPAN。
ハクシャクの隣に笑顔のテンシがいるのが見えて。

ハクシャクのテンシ

     おしまい




(原文のまま)

主な変更は以下の通り。
・ナレーター(眼帯娘)の導入。
・舞台に絡んだ演出を盛り込んだ。
・舞台の枠を大きく逸脱するような漫画的表現のカット。
・物語をタイトにするため、場所を4箇所に限定。
・三人組は同等の立場だったが、キャラ立ちのため、マジョをリーダー的存在に位置づけた。
・また、三人組を物語の最後に登場させることで、時間の流れ(とともに訪れた立場の逆転)を匂わせ、世界観を強化した。
・吸血後のタネ明かしをセリフではなく、映像で語らせることにした。



試作Flashを見た武藤さんは驚いたようだった。
イメージしていたものとかなり違ったのだろう。
しかし、武藤さんから「駄目だ」という言葉は出なかった。
「ナレーターはいいアイデアですね。全体的に可愛すぎるけど、こういうのも面白い」

 ×月×日
このFlash「ハクシャクノテンシ」を年末のオンラインFlashイベント、「第三回紅白FLASH合戦」に投入しようと思い立つ。
武藤さんの快諾も得られたため、参加申し込み。

 ×月×日
台詞を推敲、余分な演出を切って、第三稿が完成。
これが最終的にFlashとして作成されたものだ。
第三稿完成と同時に、Flash製作を本格的に開始した。

 ×月×日
背景が一通り完成。
世界観がようやく形を得た。




 ×月×日
第一幕が完成。
この段階で、まだスタンドマン(ラーメン屋のミイラ男)をデザインしていないことに気づく。

 

上がったデザインがこれ。ガスマスクは私の趣味だが、背景キャラクターとしての無個性さを出すためでもある。
同時に演出として登場させるための野良猫もデザインした。

 11月×日
イベントの作品提出期限が迫ってきた。
ここまでのペースで計算すると、第4幕後のエピローグで三人組が登場するシーンを丸々削れば間に合うといったところだ。
原作にないシーンだが、削る気など毛頭ない。
少ない台詞で登場人物の性格と時間の移り変わりを説明するこのシーン…あるとないとでは世界観の広がりが全然違うのだから。



 11月末
作品がほぼ完成。
BGMを決定、許可を申請する時が来た。
YASUさんの楽曲を片っ端から聴いて確認する。
ハクシャクノテンシの世界観は、この楽曲を得て初めて完成する。私は確信を持って、YASUさんにメールを送った。
YASUさんは若輩者である私の突然の申し出にも丁寧に対応し、楽曲の使用許可を快く出してくれた。
改まって本人に伝えたことはないが、私はYASUさんの生き方やギターに対する姿勢を心から尊敬している。
それだけに、とても嬉しかった。

 12月×日
エピローグからエンディングにかけて使用する楽曲、「ごめんね」と「喜びの歌」を編集しながら、肌に粟を立てる。
swfファイルに曲を取り込んで映像と合わせる作業は難航した。
Flashの仕様上の問題から、第4幕以降が激しい音ズレを起こしていたからだ。そのため、ズレのフレーム数を考慮して音を再配置してはパブリッシュして確認しなければならなかった。
しかし、同期が正確に取れた時、改めて私はこの曲を選んで本当によかったと思った。

 12月×日
Flash「ハクシャクノテンシ」、完成。
結局、イベントの作品提出期限には間に合わず、修正期間を利用しての提出となった。
完成を武藤さんとYASUさんに報告すると、さして日も置かずにイベントが開始された。

 12月29日
Flash「ハクシャクノテンシ」、公開。



関連スレッドで、十分すぎる反応があった。
製作の苦労が報われた瞬間だった。

 2005年
 1月×日
「第三回紅白FLASH合戦」、各賞の発表があった。
ハクシャクノテンシは感動賞を受賞していた。
賞品はお世話になったYASUさんに受け取っていただいた。
ハクシャクノテンシには、300人近くから感想が寄せられていた。
感想をまとめたものをイベント運営からいただき、私はそのコメントひとつひとつに狂喜した。
(感想は武藤さんとYASUさんにも送った)
この感想集は今でも私の宝物だ。


 1月×日
要望を受けて修正作業に入る。
幕間の暗転時間の調節、オブジェクトのズレ、フォントの修正など。



 1月×日
ハクシャクノテンシVoice企画を思いつく。
密かに企画ページを作り、声優募集の準備を始める。


 1月×日
ハクシャクノテンシVoice企画、募集開始。
大勢のネット声優さん、プロ声優さん達と交流が始まったのは、ここからだった。

 6月×日
「ハクシャクノテンシを演劇でやりたい」という声が寄せられ始める。
素晴らしい原作に出会えたことを感謝するとともに、武藤さんとひとつのものを作れた喜びを改めて感じた。
ハクシャクノテンシは(2006年12月現在)、20以上の演劇化が実現している。
いまだに演劇化の許可申請メールが止まないのも、一重に原作の力だと信じている。

 2006年
 12月31日
「ハクシャクノテンシVoice版」公開。






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記録者
nae

N-GRAVITY

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